SOMEOFTHEM

野良メディア / ブログ / 音楽を中心に

サムオブ井戸端話 #089「ラップパフォーマンスにおける身体性」(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

友人のミュージシャンのライブを見ながら身体性について考えたカンノメンバー。人前に立った瞬間に起こる身体の無意識的な動きの話から、ドラマでの武田鉄矢THE NOVEMBERSの動き方の変遷、RIP SLYMEKICK THE CAN CREWの違いについて語りました。

 

 

カンノ:この前、とある友人の音楽ライブを観に渋谷のWWWというライブハウスに行ってきました。人もたくさん入っててすごく良かったです。で、そのフロントマンである友人の舞台上での振る舞い方が、なんかぎこちなかったんですね。僕はその友人の性格とかいろいろわかっているのでなんとなく思ったのが、人前に立ってなにか振る舞わなければいけない状況になったときに照れを隠せない人間なんだよ。

YOU:なるほど。

カンノ:照れるんだけど「盛り上がってますか~!」みたいなことを言わなくちゃいけないこともわかってる。

YOU:バランスを取らなくちゃいけないってことだね。

カンノ:そのバランスを保とうとしつつ上手くいかなくて結果、舌がもつれたり動きがぎこちなくなったりする、みたいなことってあると思うんだけど、この友人の場合、それが可愛げとして表れるんだよね。

YOU:ほお。

カンノ:その友人は見た目もシュッとしていて、文系っぽい顔立ちでおしゃれなメガネをかけていて。そんな奴がちょっと上手く喋れなくなって「ウへへへへ」みたいなことを言うと可愛くなるんだよね。

YOU:なるほどね。

カンノ:ライブ終演後にそいつに「可愛かったよ」と言ったんだけど(笑)でね、人前に立った瞬間にそうなってしまうことってあるなと思ったの。それは人前に立つことの緊張やプレッシャー、人前に立つって基本は非日常体験だからさ。何百の目がこっちを向いてるんだから。そのときに身体が勝手に動いてしまうとか、無意識のうちにその人のクセが出てしまう場面ってあると思うのよ。たとえば僕だったら人前に立ってなにか振る舞うときに、確実に口数が多くなるんだよ。余計なことをバンバンMCで喋っちゃう人間なの。それは無意識のうちに「間を埋めなきゃ」って思ってるからなんだよね。

YOU:なるほどね。

カンノ:だから僕は人前に立ったら「めちゃくちゃ喋るキャラクター」として認知されることになると思うの。それは身体の無意識な反応として。で、さっき話した演歌の話ってそういう身体のクセみたいなものを徹底的に排除した世界なのかもって思った。

YOU:天然で動いている人ってたしかにいないかもね。

カンノ:演歌の身振り手振りって演技に近いと思うんだよ。歌詞の世界観を表すのにこういうこぶしの手つきをするとかさ。

YOU:ある意味での振付だもんね。

カンノ:身体の動きって人によって型が存在するということがおもしろいんですよね。ここでジャンルを変えた話をします。テレビ東京で放送していた『ダ・カーポしませんか?』というドラマがありました。秋元康が企画・脚本のドラマです。

カンノ:で、主演が武田鉄矢。そしてデスゲームものです。武田鉄矢がこのデスゲームを取り仕切る執事役。その武田鉄矢、デスゲームの執事なんだけど、やってる演技がどうしても金八先生なんだよね。

YOU:フフッ。

カンノ:「あなたたちクズはですね~!」みたいな(笑)「やっぱりこの人ってこの型で動く人なんだな」って思いながら見てたんですよね。

YOU:『バトル・ロワイアル』の原作小説に出てくる教師のモデルが金八先生なんだよね。映画版でビートたけしに上書きされちゃったけど。ダ・カーポしませんか?』はそれが現実になったな、と思ったね。

カンノ:そうだね。

カンノ:なんか、いろんな場面で人の動きって決まった型で動いているんだなと思うことが多くてね。もちろん指導方法で変え方とかは当然あるんだけど、根っこからまるっきり変わることってないんだろうなと思ってね。人前に立って動くことで、どうしたってその人の持ち物が露わになるというか。

YOU:そういうクセが言ってしまえば味になるんだろうけどね。

カンノ:そうそう。それは十人十色でね。

YOU:このサムオブでよく話すけど、THE NOVEMBERSに関して思うことがあって。

YOU:THE NOVEMBERSにとって昔はギターを持って歌うことが前提だったのが、L'Arc~en~Cielのhydeみたいにマイクを握って歌うようになったんだよね。でもその動きについては、ヴィジュアル系になりきていなさみたいなものは正直あるんだよね。

カンノ:すごい雑な言葉でいうと、下北系からヴィジュアル系になっていった人たちだとすると、ヴィジュアル系に見せるにはまだ下北の片鱗が残ってる感じだよね。

YOU:そうそう。マジでそう思う。

YOU:でもそれがなにかを悪くしているわけではない。

カンノ:それがすなわち”味”ってことだよね。

YOU:そういう例はいっぱいあるかもね。

カンノ:動きとか身体性みたいな話で最近思ったことでいうと、僕は2002~3年のRIP SLYMEばかりを聴いているんですが。

YOU:全然最近の音楽じゃないじゃん(笑)

カンノ:音源聴いたり、ライブ映像を見たりね。で、KICK THE CAN  CREWとRIP SLYMEってあの当時は一緒くたに見られがちだったじゃないですか。

YOU:俺も似たような時期に売れてたHIPHOPグループという雑な理解の仕方をしてたかな。

カンノ:そういう括られ方をされがちだったと思うんだけど、ここ最近、この2組は違うなと急激に思った観点があって。KICK THE CAN  CREWは言葉の人たち。この言葉を聴かせるためにラップをやってる人たち。意味を伝えるためにラップをやってる人たち。それに対してRIP SLYMEってダンサーなんだよね。

YOU:ああ、なるほど。動きが良いっていうこと?

カンノ:とくにRYO-Zのラップを改めて聴くと、すごいパーカッシブな言葉の出し方なんだよね。

YOU:「パーカッシブな言葉の出し方」ってすごくいいね(笑)

カンノ:言葉がリズム化しているというか、このリズムをやるためにこの言葉を出してきたっていうことがわかるんだよ。で、RYO-Zという人はもともとダンサーなんだよね。

YOU:あ、本当にダンスをやってた人なんだ。

カンノ:HIPHOPへの触れ方は最初はダンスだったみたい。

YOU:のちにラップを始めたんだね。

カンノ:メロディのPESとリズムのRYO-Zっていうのが非常に重要なグループだったと思うんだよね。

YOU:たしかに言われてみると、KICK THE CAN  CREWをパーカッシブな捉え方とか言われてもあんまりピンと来ないかもね。

カンノ:あの人たちは意味でラップをするから、暗い曲とかが多いんだよね。それに対してRIP SLYMEは音と言葉の同化のほうが重要な気がしていて、極端なことを言うとなにを言ってなくてもOKなのがRIP SLYMEという感覚があるかな。それはライブ映像を見ていても、RIP SLYMEは振付があったりするから。KICK THE CAN  CREWはそれぞれのラッパーが個々でラッパーとして攻めてくる感じなんだけど、RIP SLYMEは団体芸なんだよね。

YOU:わかりやすすぎる例だけど、「熱帯夜」とかはそうだもんね。

カンノ:で、昔はKICK THE CAN  CREWの意味論が好きだったんだけど、今は身体性のあるRIP SLYMEのほうが明らかに好きなんだよね。

YOU:そこから捉え直している人もあまりいない気がするね。

f:id:someofthem:20230504093942j:image