SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。
雪が降る寒いなか、ケツメイシの新曲が沁みて涙を流したのと同時に「こういう人が高い壺を買うんだな」と思ったカンノメンバー。「このままでいい」「大丈夫」と歌うJ-POPを聴く層は、心身が不調で現状が大丈夫じゃない人ではないかという話をしました。
カンノ:1月半ばに雪が降った日がありました。雪が降るなか、外で仕事をしていたんです。めちゃくちゃ寒くて。手袋も濡れて使いものにならなくなって。缶のホットコーヒーがすぐに冷めちゃって。身も心も冷え込みました。
YOU:可哀想に…(苦笑)
カンノ:もうボロボロで死んじゃいそうでした。そのときに、たまたま新着プレイリストで流れてきたケツメイシの最新曲があったんです。「We GO」という曲なんですが。ちょっと聴いてみてください。
YOU:2000年代じゃん(笑)
カンノ:これを聴いて本当に心から温もりが沁みて泣いちゃったんだよ。
YOU:アハハハハッ!
カンノ:本当に良い曲で。「音楽を聴き続けてよかった!」と思ったの。
YOU:おい、この話はブログにならないぞ…(苦笑)
カンノ:でね、めっちゃ良い曲だと思って涙が出たのと同時に、「こういう心情の人が高い壺を買うんだな」と思ったの。
YOU:アハハハハッ!
カンノ:泣きながら騙される人の心情になったの(笑)
YOU:心がしっちゃかめっちゃかで、主観なのか客観なのかさっぱりわからない(笑)
カンノ:でね、J-POPの効能ってこういうことだなと思ったの。
YOU:まぁ、わかるよ。J-POPって高い壺を買わせる行為に等しいよね。
カンノ:J-POPって身も心も弱くなっちゃった人に対してずっと「大丈夫だよ」と言ってあげ続けることによってお金が生まれるんだよね。「現状を変えよう」って曲はJ-POPじゃなくてメッセージソングになっちゃうの。
YOU:なるほど。たしかにJ-POPは「このままのあなたでいいんだよ」だよね。
カンノ:そう。「ずっとこのままでいいんだよ」と言い続けるのがJ-POPなの。励ましソング、大丈夫ソング、ありのままソング、素直ソングの大味さってめちゃくちゃ現代に都合がいい作りになってるの。
YOU:なるほどね。30年停滞した日本にピッタリだね。
カンノ:そうなんだよ。「ずっとこのままでいい」って言われ続けた結果が今だし、音楽もそういうものが残ってる。やっぱりね、弱い者に合わせた表現はその程度のリテラシーにならざるを得ない。っていうことを雪の寒空のなか、泣きながら思いましたね。
YOU:もうすべてが可哀想だよ…(苦笑)
カンノ:心身の不調のときによく思うんだけど、人間の「面倒臭い」とか「考えたくない」という欲望って最強だね。
YOU:映画『花束みたいな恋をした』でも主人公の菅田将暉演じる麦くんが「もうパズドラしかできなくなった」的なことを言ってましたが、あの状態ですよね。
YOU:もう小難しいことなんか考えたくないし、音楽はただ楽しいだけのやつがいいっていう人は多いよね。
カンノ:そういう人のためにわかりやすい装置としての励ましソング、大丈夫ソング、今のままでいいよソング、ありのままソング…。
YOU:全部ストロングゼロ状態だ(笑)
カンノ:まさしくそう。最近、ストロング系アルコール飲料の縮小傾向のニュースがありましたが、それと同じように日本の音楽界も大丈夫ソングを縮小させてほしいんです!
YOU:アハハハハッ!
カンノ:やってくれないかな。
YOU:日本の投票率が低いのも全部大丈夫ソングが蔓延った世界だからじゃないかなって思うね(笑)
カンノ:そうですよ!サクッと酔ってる場合じゃないんですよ!
YOU:本当そうだよね。
カンノ:あとはカバー曲。今のカバー曲って音楽を聴くのが面倒臭いと思ってる人のためにあるもんね。
YOU:昔は意味合いが違ったんだけどね。昔はそもそもの曲数が少なかったのと、定番曲というのものが少なかったからこそ持ち歌を増やすために他人の曲をカバーする文化というものがあったみたいだけど、今のカバー曲はそれこそJ-POPの”そのままでいいよ性”を強めるためのものとして存在してる感があるよね。
カンノ:僕は最新のカバー曲をリサーチしながら聴くタイプの人間なので、もちろんそんな人は珍しいタイプだと思うの(笑)でも基本的にカバー曲って音楽をあまり聴かない人のために存在していると思うんだよ。「なんでもいいから知ってる曲流してくれ」プレイリストね。
YOU:フフッ。
カンノ:だって歌うまい人はその人のオリジナル曲よりも、みんなが知ってる曲歌ってくれたほうがいいでしょ。それがちょうどいいんだよ。
YOU:なるほどね。
カンノ:ちょっと話が展開しちゃったので最初に戻ると、J-POPと体調は密接につながってると思うんです。
YOU:カンノは今、日本人の体調が悪いからJ-POPが売れ続けているという話をしているんだね(笑)
カンノ:だって僕がそれを体感したんだから(笑)ちょっと言わせてくれ、僕はね、めちゃくちゃ音楽聴いてるんだぞ。
YOU:ナメるな!(笑)
カンノ:俺をナメるな!めちゃくちゃ音楽を聴いてるんだ!
YOU:アハハハハッ!
カンノ:まぁ、冗談が過ぎたけどさ(笑)でも今、ケツメイシの新曲を聴いて僕らは「めちゃくちゃ平成中期みたいなことやってるな」と思うわけじゃん。平成の匂いのするハートフルさで思わず笑ってしまうリテラシー。
YOU:そうだね。
カンノ:でも普通の人はこんな受け取り方をしないんだよ。
YOU:そりゃそうだね。
カンノ:本当にハートフルで良い曲だと思ってケツメイシのライブに行くんだから。
YOU:そうだよな。
カンノ:で、そういうときに大事なのは、ケツメイシは自分たちのラップスキルを見せるようなライブは絶対にしないんだよ。
YOU:それはJ-POPアーティストとして逆に職人だよね。
カンノ:その意味ではマジでプロフェッショナルだと思う。