エレファントカシマシが2008年にリリースした『俺たちの明日』という曲がある。CMソングにもなっていたし、知らない人はほとんどいなんじゃないかってくらい有名な曲だと思う。だが、僕にとっては2番のAメロの歌詞に殴られた思い出のある曲である。
10代 憎しみと愛入り混じった目で世間を罵り
20代 悲しみを知って 目を背けたくって 町を彷徨い歩き
30代 愛する人のためのこの命だってことに あぁ 気付いたな
この曲を聴いた当時、僕は10代で「自分が憎しみと愛入り混じった目で世間を罵」っていたことを自覚させられ、非常に気恥ずかしい気持ちになった。(そういえば、この歌詞を教えてくれたのはこの野良メディアの主宰者オノウエである。奴も気恥ずかしそうだった。)10代の知識も経験もない有象無象が世間、国内の政治経済、芸能、国際情勢、その全てを罵っているのを、全然尊敬していないオッサンから「わかるよ、その気持ち」と言われる気恥ずかしさである。ちょっと反省もした。
と、同時に、余計なお世話だコノヤローとも思った。
悲しみもしらないし愛する人なんかいない当時の自分には、彼らが乗り越えたであろう10代の自意識を的確に言い当てられた上に、自分が応援ソングのネタに使われている気分になって、無性に腹が立ったのもよく覚えている。
(高校生の頃から自分の自意識過剰で自分を卑下する割にプライドが高い思考が感じられて、やっぱり気恥ずかしい。ちなみにエレカシで一番好きなアルバムは『Good Morning』である。)
以来、この曲は僕に気恥ずかしさと怒りをもたらす曲になっている。自分はこの曲のいうところの20代にいるのだろうか、とか考えてしまう。
でも、僕はいまだにどこかで余計なお世話だコノヤローと思い続けている。「さぁ頑張ろう」とか誰かに言いたくない。
1999年結成、2004年にメジャーデビューした日本のスリーピースロックバンド、STAN。のちにSTAnに表記を改め、2011年に活動停止。
STAN、まずは単純にサウンドがカッコいいのである。Led Zeppelinのようなクラシックなロックを感じさせつつ、なおクセがあるギターリフ、リズム隊の芯が強く安定感のある演奏に、当時の僕はとても魅了されていた。
でも、僕がSTANを好きで好きでやまなかった1番の理由は、ボーカルギター西井鏡悟(通称KYG)の大胆不敵でテキトーだけど確信に満ちた(ように見える)アティチュードだった。
STAn / ULTRAMAGNETICSTANS (Live from "Be happy.")
誰より僕等メロディーがいい
誰より僕等リズムがいい
誰より僕等アレンジがいい
気合もグー
『ULTRAMAGNETICSTANS 』
自分のバンドを自分の曲で全力肯定するバンドに衝撃を受けた。実際メロディーもいいしリズムもアレンジも気合いもグーである!(この曲はほとんど自己紹介ラップで占められている(!)のだけど)
ハイハイわかりましたよ そうですね 全くあなたの言う通り
言い訳する気なんかございません ところでそろそろ踊っていい?
『After All』
STAN(この曲をリリースしたときはSTAn)の魅力を象徴する一曲。圧倒的な自己肯定。馬耳東風の極み。
君と僕が正気を失わなければ 森羅万象は好転するようにできてる
『タイガーアイ』
別の曲ではふざけ半分で自分たちを肯定しているようにみえるのに、「正気を失わなければ」という言葉の裏に、正気を失わさせるような世界を感じさせる。でもそんな存在を前に「森羅万象」なんて壮大なものがすべて「好転」すると言いきる。大胆不敵。
「さぁ頑張ろう」とか言いたくないし、言われたくもない。「余計なお世話だコノヤロー」と本気で思っている自分には、STANこそが唯一、素直に「頑張ろう」と思えるような応援歌をくれるロックバンドだった。自意識過剰な僕の世間との戦い、絶対に「あの頃はこう思ってたけど、若かったなぁ」とか言う悟ったオッサンにならないための戦いを肯定してくれるバンドだった。
そんなバンドが少なくなった気がする、と思う自分がもうオッサンなのかもしれない。
最後に言っておくと、エレカシはとても好きです。
You-suck ナードなサラリーマン