SOMEOFTHEM

野良メディア / ブログ / 音楽を中心に

初期サンボマスターにあった人との関係をめぐる逡巡について『僕と君の全てをロックンロールと呼べ』

人に共感することが可視化されるような社会。他人の喜び、悲しみを自分の事のように捉え、それを「いいね!」ボタンの数で競い合う。その共感がビジネスを生み、あるいは諍いを生み、自分の経験にしか基づかない感情の外に出ずに日々を過ごすことを促進している。そして、どんなに自分が悪くとも、その感情の存在、発露を肯定してくれる人がいる。

でも、僕は少なからず思う。本当にそんなに他人に共感してよいのか?と。共感している人が良いと言っていればいいのか?と。また、自分には他人に共感する価値があるのか?と。

 

先日このブログでも紹介したビクターロック祭りのステージのラインナップには、サンボマスターもいた。

デビュー当時からまったく衰えない山口隆のパフォーマンスは複数あるうちの1番大きなステージに押し寄せる大勢の客を盛り上げていた。『青春狂騒曲』を聴いて、懐かしい気持ちになったが、どこか他人が演奏しているように思えてしまった。

 

僕が音楽をはじめとした漫画、映画、小説が好きな理由は、これまで自分が考えてこなかったような感情、経験し得ない世界を教えてくれること、自分が感じていても言葉にできなかったことに名前をつけてもらうことの2つに集約されるように思う。

僕にとってサンボマスターは、後者に属する。

 

中学生の頃、スクールカースト最下層だった僕は、まともにコミュニケーションをとる相手もおらず、内申点の獲得のために所属していた卓球部も適当にやり、ひたすら勉強だけしている生活を送っていた。自分にはなんの可能性もなく、誰とも付き合わずに死んで行くものと本気で思っていた。いまは友達もいるし人生辛いが死なない程度には楽しいこともあるが、少し辛い状況に立たされたときにその頃の感情を思い出す。

唯一の気晴らしは音楽を聴くことだった。実家ではケーブルテレビで音楽番組とも契約をしていたので、さまざまなアーティストを知ることができた。音楽番組で昔の曲のプロモーションビデオを眺めているのが好きだった。

 

そこに殴り込んできたのが、サンボマスターの『歌声よおこれ』だった。

 

冴えない見た目の3人、小太りのボーカルがギター弾きながら叫ぶ姿に衝撃を受けたのは他の多くのサンボマスターに出会った人と同じなのだが、何よりも自分の汚さ、恥ずかしさを抱えながら、それでも人とつながりたい、という複雑だけど当たり前に持ってしまう感情に真正面から全力で向き合った歌詞に、はじめて自分がそこにいるような気がした。

 

今僕等が誰かに望むのは多分本当の事を話して欲しいだけ/愛しさなんて僕等が知らぬなら誰か感動の歌を聴かせておくれよ

 

想い出なんて僕は捨てたはずなのに/なぜか思い出すのはズルく笑った自分

 

なんて暗くて、しかも他人や世間に多くを求めている歌詞なんだろう。でも、本当に苦しくて自分から何ものも思いつかない時、人ってこんな風に考えてしまうものではないのだろうか?少なくとも僕はそう思っていた。歌声が起こってほしかったし、誰かに本当のことを話して欲しかったし、自分が今まで思っていた汚い感情を打ち砕いて欲しかった。

いや、正直に言って、いまもそう思っている。

 

世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』が当時のヒットドラマ『電車男』(伊東美咲って今何してるんだろう)の主題歌となり、ヒットしてからすぐのアルバム『僕と君の全てをロックンロールと呼べ』もすごかった。(まずタイトルがすごい!)

重たいリフに地面の底からなんとかはい出そうとするような山口隆の歌声に思わず後ずさりしてしまうよう名ロックバラード『二人ぼっちの世界』から始まるこのアルバムは、人とうまく繋がることができない人たちにとっての救いであった。白状しよう。僕にとってはいまでも救いだ。

二人ぼっちの世界

二人ぼっちの世界

  • provided courtesy of iTunes

 

ゲットバックサンボマスター』は、街のそこに生きている人の目線から、山口隆の背追い込んだ人々の絶望と虚しさが吐露される。

 

池袋の通りじゃ また老婆たちが

「偉そうな奴は殺して」と僕に告げる 僕につめよる

 

僕ら東京の切ない唄歌いさ 心の中も変えられないの損な奴よ

 

その吐露が、山口の正気とは思えない絶唱とギターによって、美しく昇華された名曲だ。

ゲットバックサンボマスター

ゲットバックサンボマスター

  • provided courtesy of iTunes

 

この時期のサンボマスターは、人と人とが通じ合うこと、共感し合うことの難しさ、愚かさ、苦しさに向き合った美しい唄をうたっていた。人と交わりたいけど逡巡してしまう虚しい魂の鎮魂歌だった。実際には一歩も前に進んでいない。進んでいないけれども、なんとなくここにいいて気がする。初期のサンボマスターの切実さ、成熟しない熱さが、どうしようもなく愛おしい。



You-suck