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サムオブ井戸端話#010「人生を取りに来たOfficial髭男dism」(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週火曜日にアップします。

 

Official髭男dismの新しいアルバムを聴いて、自分の人生でこれから行われるようなことと、そこから発生する感情をあらかじめ歌われた気分になったYOU-SUCKメンバー。その気分のことを「人生を取りに来た」と仮定し、30歳で人生を取りに来るような楽曲を作ってきたOfficial髭男dismの"デカさ"と"急成長っぷり"について語り合いました。

 

YOU:みなさんはOfficial髭男dismの新しいアルバム『Editorial』は聴きましたか?

カンノ:聴きましたよ。

オノウエ:一応聴きました。

YOU:どう思いました?

カンノ:僕はカロリー過多だなと思いました。

YOU:カロリー過多ね、なるほど。

オノウエ:僕は普通にヒゲダン好きなんですよ。でもカンノの言ってることもよく分かる。なんか、最近のMVとか見たり、配信曲を聴いたりすると、1曲1曲のスケールがデカすぎるんだよね。「このままだとヒゲダン、危機になった世界を救いに行きそうだな」って思ったり(笑)そういう世界観に行こうとしている気がする。

カンノ:ヒゲダンの特撮化ね(笑)

YOU:俺も意見はほぼ同じ。最初にヒゲダンの新作を聴いたときに、「俺の人生を取りに来たな」と思ったの。

オノウエ:「俺の人生を取りに来た」(笑)

カンノ:それはどういうこと?

YOU:つまりどの曲を聴いても自分が重ねられるというか、あらかじめ自分の人生で起こり得るさまざまな事象と、それによって生まれる感情があらかじめ歌われてしまっていると思ったんだよね。「もうこのアルバムでオーケーじゃん!」みたいなに思った。だから、もうヒゲダンの『Editorial』を聴いた僕たちは、人生のイベントごとで『Editorial』が発動されることが決定づけられてしまったように感じた。

カンノ:なるほど。

YOU:「自分の可処分時間めっちゃ取られてる~」って思った(笑)『Editorial』全体もそうなんだけど、特にアルバムのリード曲の「アポトーシス」っていう7分くらいの良い曲があるけど、あれを聴いたときに「ミスチルになってきた」と思ったんだよね。「終わりなき旅」とか出してたときのミスチルみたいな。

オノウエ:ミスチルも人生を取りに来てるもんね。

YOU:そうなんだよ、ミスチルも人生を取りに来てるんだよ。ゆりかごから墓場までミスチルは行けるから(笑)ジジイになってもミスチルは聴けるからね。

カンノ:イトーヨーカドーみたいなこと?(笑)

YOU:そうそう(笑)イオンモールとか大型スーパーみたいなバンドだから(笑)

カンノ:ミスチルには肉も野菜も衣類も日用品も全て揃っている(笑)

YOU:それで難しいのは、「売れているミュージシャンは全員、人生を取りに来ている」というわけではないんだよ。たとえばサザンとかは人生を取りに来ているというよりは、もっと音楽的だと思うの。ゆりかごから墓場までではない。

カンノ:近年のサザンとか桑田ソロとかは人生を取りに来てるよね。

YOU:もう最近はおじいちゃんだからね。

オノウエ:たしかにサザンには、人生のイベントに触れるようなシリアスさはないよね。

YOU:そういう楽曲はないことはないんだけど、桑田佳祐だから直接的にシリアスな言葉だけじゃなくて、ユーモアや言葉遊びが入ったりとかがあるわけ。あとは長渕剛矢沢永吉山下達郎とかもそうだと思うんだけど、彼らに影響を受けすぎてプチ矢沢やプチ長渕になった人はたくさんいるから、それはそれで人生を取りに来たとも言えるんだけど、音楽だけでいうと人生を感じないんですよ。もちろんそういう曲がないわけではないと思うんだけど、みんなが知ってる楽曲で人生を取りに来るような曲はないかな。

カンノ:矢沢や長渕は楽曲よりも人格のほうが勝ってる場合があるよね。

オノウエ:”曲”に影響を受けてるんじゃなくて、”人”に影響を受けてるよね。「長渕になりたい」「矢沢になりたい」って。それが人生になっちゃう場合は人生を取りに来たってことになるけど。

YOU:そうそう。でも楽曲単位ではそれを感じにくいよね。あとポルノグラフィティやゆずっているじゃん。ポルノやゆずしか聴かない人っていうのもたくさんいるんだけど、人生は取られないんだよ。「アゲハ蝶」を聴いても人生取られた感じはしない(笑)「僕のことを歌ってる!」という感じはないんだよ。

カンノ:結局カラオケなんだよね。コミュニケーションで使われる楽曲というか。長渕や矢沢って宗教っぽいと思うんだよ。その人格に対して崇拝するというか。それに対してポルノグラフィティやゆずは日用品っぽいんだよね。

YOU:分かる。みんなで大合唱できる便利グッズ感だよね。

カンノ:まな板とか包丁とかハサミとか。「これがあれば便利」みたいなときに役立つ楽曲な感じ。でも矢沢や長渕はそういうことじゃなく仏壇っぽい。

YOU:ヤマタツは高級な洋書とかかな。1万円くらいする本みたいな。一家に1冊ある重しみたいな存在。そういう人たちがいるなかで、人生全てを取りに来ているのがミスチルだと思うんですよね。楽曲を聴いて誰もが「自分の人生に当てはまるかもしれない」と思っちゃう感じ。ようは「抽象的な人間の営み全般をパッケージにしてお届けします」というバンドがミスチルだとしたら、ヒゲダンはそこに一歩踏み込んだ感じがする。じつはその気配は前回のアルバムの1曲目の「115万キロのフィルム」からあって、この曲は僕ら世代の結婚式ソングとして今かなり使われているらしいです。

カンノ・オノウエ:へぇ~!

YOU:つまり結婚ソングって人生の一幕で使われるでしょ。プロポーズソングもあるし、あと有名な「Pretender」は失恋ソング、あとしょうもない生活や日常について歌った曲もあるでしょ、それで「アポトーシス」は死について歌ってるからね。

オノウエ:「犬かキャットか死ぬまで喧嘩しよう!」もプロポーズソングだけど、些細なことでじゃれ合いながらみたいな、日常のことを歌っていた人たちが死を歌い出すと、「来たな…!」って感じはするよね(笑)

カンノ:「次のステージに上がってきたな!」っていうね。

オノウエ:僕がさっき言った「このままだと世界を救いに行く」というのはそういうこと。ミスチルもそういうことだよね?

YOU:そうそう。そんなことを歌われるから、たとえばミスチルも勉強しながらで聴けないんだよね。

カンノ:BGMになりにくい。

YOU:善し悪しはあると思うけど、ミスチルはほかのことに集中できなくなる。そしてヒゲダンもだんだんとそうなっていくのかな。

カンノ:なるほどね。ヒゲダンのアルバムは聴いてて疲れるもん。

オノウエ:多分YOU-SUCKは聴いてて疲れてないんだけど、カンノは疲れてるんだよ。それはカンノにとってヒゲダンの音楽がデカすぎるんだよね。

カンノ:そうそう。そもそもBGM気分でヒゲダンのアルバムを聴こうとしたからカロリー過多を感じたの。

YOU:「あなたの人生にお供します!」という気迫のアルバムだからね(笑)あと「アポトーシス」の制作ドキュメントみたいな動画がYouTubeにあるんだけど、ボーカルの人が「(バンドが)いつまで続けられるのだろうか」「僕にも家族がいるから、いつまで元気でいてくれるのだろうか」って言ってるの。彼は30歳で僕らよりも年下なんだよ(笑)

カンノ:30歳ってもうちゃらんぽらんに過ごしちゃいけない年齢なのか!(笑)

YOU:なにもなく30年過ぎちゃったからさ(笑)で、「急にクソデカ急成長バンドになっちゃって大丈夫なのか?」と思っちゃって。

オノウエ:絶対揺り戻し来るよね(笑)

YOU:5年後とかにライブハウスツアーやるよ(笑)たとえばミスチルは異常だから、スケールがどんどん大きくなっても爆発しないバンドだったけど。「これで最後でもいいと思います」って毎回アルバム出す度に言っても誰も否定しないし驚かない感じ。ポルノグラフィティとかはいい塩梅で軽めの曲とか出したりね。それもファンは聴くし。たまにヒットするし。サザンもファンに向けたライブで盛り上がれるような曲を出したりね。それらとは別で、人生を取りに来る方向を選んできたことに対する驚きをアルバムを聴いて思ったね。この方向で進むなら、多分一生カバーアルバムは出さないんだろうな。

オノウエ:そうだね、それは作らなそう。

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