SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。
インプット欲があるYOU-SUCKメンバーとカンノメンバーと、インプット欲がないオノウエメンバー。そもそもインプット欲で動くとはどういうことなのかを、アウトプット先やナルシズムの観点で語りました。
YOU:僕っていろんなものに対するインプット欲があるんです。映画とか本とか音楽とか。でも今、ちょっと仕事が忙しすぎて全然音楽聴けないし動画も見れないの。で、本当に合間を見つけて動画を見たり音楽を聴いたりしてるんだけど、それは焦燥感が大きい。「あれも聴けてない」「これも見れてない」っていう。
オノウエ:なるほど、そういう思いがあるのね。
YOU:「あと人生でどれだけ映画が見られるんだ?」とかね。つまり焦ってる。
オノウエ:可処分所得の使い方の話だね。
YOU:「どうでもいい会議開きやがって、コノヤロー」って毎日過ごしてますよ(笑)その細やかな抵抗として『男はつらいよ』を流しながら仕事してるんだけど(笑)
オノウエ:インプット欲の話は面白いかもな。
YOU:最近『ゆる言語学ラジオ』っていうポッドキャストをよく聞いてるんだけど。
YOU:名古屋大学卒の言語学が大好きな編集者と、慶応の情報学部を出たライターの2人でやってるポッドキャストなんだけど、「インプット」って言葉がよく出てくるの。知的好奇心が2人とも強くて、いろんな本を読んで蘊蓄を溜め込んでそれを喋ることを良しとしてる人たちなの。俺はそれに結構共感してるの。「インプット奴隷」という強い言葉が出たり。たとえば「ちょっと皿を洗ってるときにインプットしないと落ち着かない」とか。そういう話にすごく共感するの。でも俺は最近、それが出来てないのよ。インプットがうまくできなくて、その結果意味のあるものを摂取できなくなって、その負のループというか(笑)最近はそれを開き直って、仕事中に『男はつらいよ』を流しながらなんか泣いちゃったりしてるよ(笑)
カンノ:僕はインプットってアウトプットのためにやってるね。
YOU:それが一番健康だよ。俺はアウトプット先がないんだよ。
カンノ:だからしんどいよね。インプット欲だけって。
YOU:「あれも食べたい」「これも食べたい」しかないからね(笑)
カンノ:だからYOU-SUCKは「映画のレビューを書くまでが映画」の人なんだよ(笑)
オノウエ:嫌なこと歌うよな(笑)
YOU:『花束みたいな恋をした』っていう映画もそうだったじゃん。
YOU:主人公たちはインプットだけで満足している人たちじゃん。「自分がインプットする行為はいいことで、それを邪魔する人たちは悪い人だ」という前提が2人の間に最初に共有されていて、それがだんだんズレていく話じゃん。「そんなことはわかってんだよ!」って気持ちだよね(笑)「余計なことしてくれやがって~!」っていう。
カンノ:いつ自分が菅田将暉になってもおかしくないもんね(笑)「仕事だから映画なんて行けないよ」みたいな。
YOU:そんなことする暇あるんだったらエクセルやパワポの勉強をしたりね。美学校で開講されてるライター講座で、ゲスト講師の矢野利裕さんに質問したことがあって。矢野さんって学校の先生をしながら批評家をされてる人だから。で、「時間ってどうしてますか?」って質問をしたの。「いつインプットして、いつ仕事して」みたいな。その答えが「土日を使ったり、寝る前の1時間を使ったり。でも結局うまく時間を使おうとしても徹夜して次の日仕事に行ったりもあります」って言ってて。つまりやる気のある人って時間を作るんですよ。たとえば睡眠時間を削ったりして。「そこの勝負なのか~」って今になって気付くね。
オノウエ:なんか今までの話を聞いてて、「果たして俺はインプット欲で動いてるのか?」ってなってるな。2人は限られた時間のなかでなにかを摂取しようと動いてるじゃん。でもそれに対して俺は単純に無音に耐えられない男になってるなと思って(笑)
カンノ:でも覚えてるよ。たしか学生時代のときに「エレ片のラジオが好き」って話になったんだよ。
カンノ:その理由が「3人がただ喋っているのを聞いてるだけでいい」って言ってて。だからオノウエ君は学生時代から意味は摂取してないんじゃない?
オノウエ:そうそう。それで音楽でいうと、未だに歌詞に対しての思い入れみたいなものって全然ないんだよね。音楽を歌詞の視点で考えたことってこれまで一度もない。だから意味に対してものすごく鈍感なんだよね。だから「インプット」って言葉の内実も全然理解できてない。
カンノ:インプットは「これを聴いてどう思ったか?」とか「これを見てどう心が動いたか?」の確認作業ではあるかな。たとえば映画なら「このシーンはこういうカット割りだから、観客はこう思うように仕組まれてるんだな」とか「ここで極端に台詞が少ないことでこういう状況設定を表してるんだな」とかって映画を見続けたらある程度わかってくるじゃん。ものの見方とか。「こういうつもりで俺は見てるな~」って思うことが好きだったりするから。
オノウエ:映画館に行って映画を見るとか、劇場に行って演劇を観るとかってその視点はあるよね。
カンノ:わかった、オノウエ君はインプットにおけるナルシズムが全然ないんだよ。
オノウエ:あ~、ないね。
カンノ:僕はなにかをインプットするときにナルシズムが発動してますね。
オノウエ:インプットするときのナルシズムは面白いね。たしかに俺は全然ない。
YOU:「俺は今、これを摂取しているぞ」ってことにご満悦になること?
カンノ:「これを見てるときに自分はこう思ってるな」ということに自分で酔ってるよ。
YOU:やっぱりカンノって自分の見たものや聞いたものとかを全部、自分の制作とか考え方につなげてるよね。そういうことを全て必然的につなげていくのは能力だよ。
カンノ:『RADIO』っていうアルバムを作ったけど、最初は「FMラジオって面白いな~」からだもんね。
オノウエ:もともとカンノはFMラジオを聞いてたわけじゃん。で、あるときに「これは変だな」と気付くわけじゃん(笑)その気付きからFMラジオを分解してアルバムにするわけじゃん。で、もう前の気持ちでFMラジオを聞くことはできないよね。
カンノ:もうFMラジオの制作側の気持ちだからね(笑)
オノウエ:カンノがよく言うけど「もうお笑い芸人のラジオを楽しく聞けない」っていうのと同じだよね。
カンノ:そうだね。構造とか意図とかが見えちゃうから。
オノウエ:それでいうと俺はもう音楽をちゃんと聴けないかもしれないな(笑)「なにか鳴っててほしいけど、なにも考えたくない」っていうものはラジオとか対談の動画とかになっちゃうな。意味はよくわかってないけどとにかく鳴っている状態というか。
カンノ:オノウエ君はインプットじゃないよ。安心感が欲しいんだよ。無音が不安だから。
オノウエ:無音が不安なんだよ!
カンノ:アハハハハッ!落ち着かないんだろうね。
オノウエ:そうだね。薬みたいなもんだよ。
カンノ:インプットについて考えてみたけど、インプットしているそのものじゃなくて、インプットしたときの自分の感情についてのほうが僕は全然大事だね。そうじゃないとインプットが面白くない。
オノウエ:多分俺は「インプットをしている」と思ってインプットを今までしたことないかもしれない。
YOU:多分これは凡人ほど「アウトプットするためにはこういうインプットが必要だ」って思う気がするな。
カンノ:そうだね、理屈をつけるんだよね。
オノウエ:そういう理屈は全然つけないなぁ。そういう能力が俺は全然低いんだと思う。
カンノ:インプットとアウトプットの話は面白いね。また今度続きがしてみたいかも。