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サムオブ井戸端話 #073「NUMBER GIRLと菊地成孔から”散り際”を考える」(後編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

NUMBER GIRLと菊地成孔から"散り際"について考えるサムオブメンバー。後編では解散後の人生の長さやコミュニケーションを円滑に回せるようになったことで再結成に至るバンドが増えたことや、トリビュートアルバムから"散り際"ついて考えました。前編は下記リンクから。

 

 

カンノ:再結成は増えたよね。最近だとELLEGARDENがトピックとして大きいね。

YOU:エルレの話でいうと、最近のSpotifyYouTubeの広告で、ELLEGARDENのトリビュートアルバムを聴いた女子高生が流れでELLEGARDENを聴いてたら、お父さんが部屋に入ってきて「お前がエルレを聴くようになるなんて…!」と感極まって涙流したっていうやつがあって(笑)

カンノ:アハハハハッ!

オノウエ:このCMは「エルレは父親世代を代表するバンド」みたいなことになってるよね。

YOU:エルレを聴いていた世代で女子高生の子どもがいる人は少ない気がするし、プロモーションは間違ってる気がするんだけどな(笑)その解散とか再結成みたいな話でいうと、昔のバンドとかありがちだけどさ、20代や30代で解散して別のプロジェクトをやる人って多いじゃないですか。ハードロックのバンドとかってメンバーは全員変わって屋号だけ残るみたいなこととかもあるわけで。ようはバンドの維持コストってめっちゃ高いからパッと解散しちゃうってことなんじゃないかと思うのだが。

カンノ:それを物語的に言うと「バンドって青春だから」みたいな言い方になるよね。

YOU:そうそう。その勢いでバンドをパッと解散させるんだけど、そこで別の問題が起こるの。バンドを解散したところで、そこから人生はまだまだ長いんだよね(笑)

カンノ:たしかに長いよな~。

YOU:だからこそ再結成という選択肢が出てくるんじゃないかな。人間的に角が取れてさ、コミュニケーションができるようになってきて、「またバンドやろうぜ」って言えるんじゃないかと。だから再結成は増えてる感じがするのかなと思うんだけど、その一方で頑なに再結成しない人もいるよね。BLANKEY JET CITYとかTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTとか。絶対にやらないじゃん。あれはあれで美学を感じるよね。

カンノ:改めてやる選択をするのも人間だし、頑なにやらない選択をするのも人間だなって思うね。どっちの気持ちもわかるよね。

オノウエ:NUMBER GIRLの実動って7年くらいで、メジャーデビューしてからは3年でしょ。それで解散するじゃん。多分、解散したあと全員「ヤバい」って思ったんじゃないかな。若いから勢いで解散するじゃん。でも解散してからの人生は長いんだよ。仮に自分がその立場だったらと考えたら「ヤバいな」って思っちゃうな。実際に大友良英がGROUND-ZEROというバンドを解散したときは1ヶ月間ずっと家にこもって漫画を読むことしかできなかったらしいし。だからそのあとに組むバンドに関しては柔軟になっていくんだろうね。ZAZEN BOYSもメンバー変わっても続いてるし。そういう感じで自分の音楽と人生に折り合いをつけていくんだろうね。

カンノ:NUMBER GIRLはさ、「続けないことが正解」っていうことが演者もファンもスタッフも薄々気付いているのがいいよね。「これは期間限定だな」っていうことを喋らないで伝えることが大事だなって思うの。「ここまでです」っていうことを言わないでやってくれたのはよかったね。その線引きの仕方が向井さんはめっちゃうまいなって思った。

オノウエ:それは俺も思ったな。あと解散発表をしたときも「まぁ、やっぱりそうだよな」って自然に思えたね。

カンノ:僕はちょっとホッとしましたね。正直に言うと「新曲が出ないでよかった」と思ったかな。「新曲聴きたかったけど、出さないという手だよな」と思ったね。

オノウエ:たしかに、それもそうかもね。そういうところに美しい美学を感じるよね。

カンノ:J-POPをとおして、美学を感じる場面がちょっと少ないかな。

YOU:フフッ。

カンノ:音楽に情報が多いんだよな。それってサービス性の塊なんだよ。「こういう気持ちにさせたい音楽」っていうのがガバガバで出ちゃってるじゃない。そういうの、もう嫌なの。

オノウエ・YOU:フフッ。

カンノ:「お客様のために」みたいな音楽はもういいの、別に。「そのミュージシャンが本当にやりたい音楽をやれば、それを聴きたいと思うリスナーが勝手についてくる」ということの大成功例がNUMBER GIRLだったと思うからさ。エルレのトリビュートの面子、見てみなよ。サービス業じゃん。

YOU:そんなこと言ってやんなよ(笑)我々の世代のトリビュートアルバムの金字塔ってthe pillowsの『SYNCHRONIZED ROCKERS』じゃないですか。

YOU:いつか「トリビュートアルバム特集」みたいなことをやってもいいと思うんだけどね。

カンノ:僕らからすると、ピロウズのトリビュートが中学2年生のころにリリースされたけど、すごい衝撃だったよね。

YOU:めちゃくちゃいいもんね。下手したら原曲超えてくると思えるような曲もあるし。

カンノ:あとあれは興行として100点だよね。「トリビュートアルバムは興行だ」という認識がどれだけあるのかっていうさ。このエルレのやつは全然興行になってないよね。

YOU:「今、流行っている人」という人選だもんね。

カンノ:見たいマッチメイクが一つもないじゃん。

YOU:見たい意外な組み合わせや事故がないよね。こっちはPOLYSICKSの「チェリー」のカバーみたいなのが聴きたいからさ(笑)

カンノ:人選を担うのがレコード会社なのか事務所なのかよくわからないけど、そういう観点のトリビュートが最近はあまり見られないよね。

YOU:音楽業界にお金がないんだよ。

オノウエ:やっぱりそこに戻っていくのかな~(笑)

YOU:散り際話でいうと、bloodthirsty butchersがいるじゃないですか。ボーカルの吉村さんが亡くなったあとにラストアルバムとトリビュートアルバムが出たんだよね。

YOU:あのトリビュートが本当に良くて、それはやっぱりbloodthirsty butchersというバンドの曲が全曲あまりにも良すぎるからだよね。亡くなっちゃってるから”散り際”という言葉はあんまり使わないほうがいいのかもしれないけど、あのラストアルバムとトリビュートアルバムは一つの理想な気がするかな。

カンノ:世代問わずに本当に好きな人が集まってるかどうかだよね。

YOU:そういうことだよね。オノウエが提示した”散り際”という話題に関しては、悲しいけどどうしてもbloodthirsty butchersのことを思い出してしまいますね。

オノウエ:たしかにそれは一つの形だよね。

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