SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。
音楽で人の心をどこかに持っていく"ミュージシャン"という仕事はヤバいと思ったカンノメンバー。ミュージシャンにまつわる報道を見るたびに「信じたい」と思う気持ちと「信じるな」という葛藤が起こることについて考えました。
カンノ:この夏頃から様々な芸能ゴシップ、政治ゴシップ、会社の不正のニュース、音楽フェスや芸能事務所の性加害問題等、もういろいろあったじゃないですか。で、この夏のどうしようもない暑さ。ちょっと精神的に参っちゃって。で、メンタルがそうなっちゃうと新譜なんて聴けないんだよ。
YOU:そうだね。
カンノ:もう新着プレイリストが一発バズを狙う曲だらけに思えちゃってさ。ロックもヒップホップもTikTok発のやつもK-POPも全部聴けなくなっちゃって。だから7月はNUMBER GIRL、8月はRIP SLYMEばかり聴いていました。
YOU:かつてバズっていた人たちじゃん(笑)
カンノ:NUMBER GIRLの昨年のラストライブ『無常の日』の音源がリリースされて、もう何百回と聴いてるね。
カンノ:あといろいろムカつく出来事とか、精神的に参るような出来事があったときに、NUMBER GIRLの初期のライブ音源を聴いて家でノッていたりね。
YOU:もうやってることが田舎のロック好きの男子高校生なんだよ(笑)
カンノ:僕は本当にNUMBER GIRLが大好きなんです。この人たちが言うことの何もかもを信じられる気持ちです。大好きだし救われてるから。でね、この精神状態はちょっと危ないなと思ったんです。ミュージシャンって音楽で人の心をどこかに持っていく仕事なんだよ。で、自分は見事に持ってかれてる。この仕事はヤバいなって思うよね。
YOU:なるほど。
カンノ:だって心を揺さぶられた側は信奉しちゃうじゃん。たとえば矢沢永吉しか流れない、長渕剛しか流れない、サザンオールスターズしか流れない飲食店とかあるじゃん。
YOU:トラックの運転手とかでもそういう人いるよね。
カンノ:ある種、音楽ってそれが仕事じゃん。だからヤバいなって思うんだよね。音楽を仕事にするのもヤバいし、そんな音楽を好きになるのもヤバいなって思ったの。
YOU:ミュージシャンを信じるかどうかの話だね。
カンノ:自分のなかで「信じたい」という気持ちと「信じちゃダメだ」という気持ちの戦いはありますよね(笑)このサムオブでも昔、RIP SLYMEのメンバー脱退騒動について「あんなに仲良いと信じてたのにガッカリです!」というお気持ちの表明について話した回があったじゃないですか。
カンノ:あれは要約すると「組織ってそういうことはあるよね」っていうさ。でね、山下達郎のあの1件があるじゃないですか。
カンノ:あれを考えたときに一番かわいそうなのは、ああいうことを言ってほしくなかったファンの人たちだと思うのね。「こういうことを言うんだな…」とどうしても思っちゃうじゃん。
YOU:思っちゃうよね。
カンノ:あれは僕でさえ揺さぶられちゃったもんね。だからこの件でもミュージシャンって幻想を抱かせるのが仕事なんだなっていうことを逆説的に思ったんだよね。
YOU:ちょっと前に小山田圭吾問題があったじゃん。
YOU:俺らからするとああいうことがあったというのは事実としてあって、でもそれとは切り離したうえでCORNELIUSを聴いてたじゃん。
YOU:そういうのってなんでも言えるじゃん。たとえばヤマタツと同世代のミュージシャンで言ったら、松任谷由実も事実かどうかわからないけど、差別的で毒舌で有名みたいな話が流通しているじゃないですか。でもそういうこととはべつに、全然普通にユーミンは聴かれ続けてるよね。そういうことを知ったうえで聴こうとするとちょっと複雑な気持ちにはなるのはあると思うの。たとえばヤマタツのライブとか俺も行きたいけど、あの発言を聞いて以降だと、それが頭の片隅にあったうえでライブを観ることになるのは間違いないよね。でも過去にはそんなことを知らずに聴けたわけだから、それはそれで仕方ないんじゃないかなとも思うんだよね。
カンノ:そこの塩梅がもうグレーな状態でいることができなくなっているのがキツいよね。昔はグレーだったんだよね。
YOU:そうだよね。
カンノ:その歌い手がどれだけ悪いことをしていてもグレーだったし。表になることと表にならないことがあったけど、今はいろんなことが表になる時代だからね。