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サムオブ井戸端話 #113『2000年以降の邦ロックベストソング100 vs 実感』(中編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

「2000年以降の邦ロックベストソング100」という企画について語るサムオブメンバー。中編では1位である「若者のすべて」がフジファブリックの代表曲になっていることに違和感を感じたサムオブメンバーが、メジャーデビューからリアルタイムで感じていたフジファブリックの異質さについて語りました。前編は下記リンクから。

 

 

カンノ:この邦ロックランキングで当然喋ることといえば、1位のフジファブリック若者のすべて」についてです。

カンノ:僕の実感としては、フジファブリックは「若者のすべて」に集約されるようなバンドじゃないんですよ。

YOU:わかりますよ。

カンノ:っていうかメディアが注目するようなバンドじゃなかった。

YOU:そうだよね。前ボーカルの志村正彦が2009年に亡くなったときも、ニュースにはなってたけどべつに国民的バンドの扱いじゃなかったもんね。あと俺たちはフジファブリックをメジャーデビューから聴いてる世代だから、「そういう語られ方なんだ」みたいな思いはあるよね。っていうかこのランキングにかなりのフジファブリック楽曲が入ってきてるよね。

カンノ:29位に「赤黄色の金木犀」、57位に「茜色の夕日」、58位に「陽炎」ですね。

カンノ:フジファブリックがメジャーデビューした2004年は「春盤・夏盤・秋盤・冬盤」という季節ごとでシングルをリリースする企画をやってたじゃん。春盤が「桜の季節」、夏盤が「陽炎」、秋盤が「赤黄色の金木犀」、冬盤が「銀河」だったけど。

カンノ:当時、中学~高校生くらいだったと思うけど、実感として一番「やべえな」と思った曲は「銀河」だったよね。

YOU:そうだね。「銀河」のMVがスペシャとかで流れてきて、「なんだこれは!?」と思ったもんね。

カンノ:「フジファブリックがとんでもないことになってる!」って思ったもんね。でさ、季節ごとにシングルをリリースする企画だからさ、「冬はいい感じのバラードが来るんだろうな」って勝手に思ってたんだよね。それが「全然違うベクトルで来た!」っていうさ(笑)

YOU:「これは果たして冬なのか…?」っていう(笑)

カンノ:フジファブリックの得意分野である風景描写や叙情性を一切出さない(笑)

YOU:たしかにフジファブリックって1stアルバム『フジファブリック』から2ndアルバム『FAB FOX』にかけて化けてるよね。

YOU:1stは「はっぴいえんど直系です」って言われても騙されちゃうような雰囲気があるじゃん。

カンノ:「日本語を伝えるためにどうバンドサウンドを鳴らすか」って言われる感じだよね。

YOU:そうそう。もちろん意識はしてるだろうけどね。で、そういうバンドという認識のうえで2ndを聴くと「モノノケハカランダ」から始まるじゃん(笑)

カンノ:あのぶっ飛びっぷりは本当すごいよね~。

YOU:日本にはプログレバンドの歴史があって、特にフジファブリック四人囃子からの影響は受けているんですよ。対バンもしてるからね。

YOU:そういう日本の70年代のロックンロール、たとえばフラワー・トラベリン・バンドとか。そういうものの影響が2ndにはすごく色濃く出ている気がする。

YOU:ようは1stで日本語ロックの叙情性をやったと思うんだけど、2ndではテクニカルな方向を打ち出したんだよね。「プログレを好きになっちゃう日本人」をテーマにしていたんじゃないかなと今になって思うんだけど、それを思春期に聴かされたことって我々にとって結構デカかったよね。インパクトはかなりあった。

カンノ:もともとそっち側の人がそれをやってたらべつにいいんだけど、その振れ幅がおかしかったんだよね。1stと2ndの振れ幅。

YOU:そうだね。

カンノ:それで話を戻すんだけど、当時の実感として冬盤の「銀河」が一番ヤバかったじゃん。で、その「銀河」はこのランキングには入っていなくて、秋盤の「赤黄色の金木犀」がこのランキングでは「若者のすべて」に次ぐ上位に入ってきてるじゃん。あの季節ごとのシングルのなかで「赤黄色の金木犀」が一番地味な曲だったはずなんだよね。

YOU:あ~、そうだったかもね。

カンノ:春盤「桜の季節」はデビュー曲だし、夏盤「陽炎」は各局のパワープレイっぷりがすごかった。

YOU:たしかに「陽炎」は至る所で流れてた。

カンノ:で、その後の冬盤「銀河」はヤバかったっていう話はしたけど、秋盤「赤黄色の金木犀」はそのリリース直後にアルバム『フジファブリック』のリリースがあったから、先行シングルみたいなニュアンスで留まっちゃったんだよね。で、アルバムのリード曲が「TAIFU」っていう、今思うとかなり2ndアルバム風味の楽曲だったんだけど。

YOU:たしかにあれもプログレ感あるよね。

カンノ:だから実感としては「赤黄色の金木犀」はそんなに語られてる印象の曲じゃなかったんだけど、29位に入っている。

YOU:俺も「赤黄色の金木犀」はのちに好きになった。もちろんリリース時も聴いてたんだけど。「これ、初期の4枚のシングルのなかで一番いいんじゃないか?」って思ったのは結構あとになってから。

カンノ:そう。この曲は相当あとからだったと思うんだよ。当時の実感としては一番地味。シングル曲ではあるけれど、キャッチー性はほかと比べて乏しいもんね。で、「若者のすべて」もそういう曲だったよね。

YOU:これは俺たちの友達のYellow Squadronが言ってたけど、フジファブリックって2ndアルバムを出したあと、結構空白期間があったんだよね。

カンノ:時系列を確認すると、2005年11月に2ndアルバム『FAB FOX』をリリースして、翌2006年3月にドラマーの足立さんが脱退。で、その翌年2007年1月にシングル「蒼い鳥」リリースだから、1年3ヶ月くらいリリース期間が空いたんだよね。

YOU:ずっとリリースがなくて、やっとリリースされたと思ったら「何?」っていう曲だったね(笑)

カンノ:これも当時の実感だけど、2000年代って1年以上アルバムどころかシングルもリリースされないって結構な空白期間なんだよね。今は1年以上リリースされないって当たり前だけどさ。で、そんな中で足立さんも抜けたりして、「おい、フジファブリック、大丈夫か?」っていう空気感はあったよね。そのことを久々に思い出した。で、「Surfer King」、「パッション・フルーツ」、「若者のすべて」っていうシングルの流れだったんだよね。

YOU:まだ「パッション・フルーツ」が曲名もないころに、ライブ番組の『FACTORY』の観覧で俺は見たんだよ。「新曲です」って言って客席も「ワー!」って沸いて、聴いたら変な曲だった(笑)

カンノ:「Surfer King」と「パッション・フルーツ」で異国感を出してきたじゃん。で、それは僕たちの知ってた志村正彦らしくないアプローチだったじゃん。そのメタさがあったよね。そんな曲が続いたあとに超どストレートな「若者のすべて」が来たからさ。そうなると、印象としては「Surfer King」や「パッション・フルーツ」のほうが残ってたんだよね。

YOU:俺もそうで、「若者のすべては」はもちろんいい曲なんだけど地味だったよね。

カンノ:そう。通り過ぎちゃったんだよね。で、「赤黄色の金木犀」も通り過ぎちゃった曲なの。

YOU:わかる。

カンノ:実感として通り過ぎちゃった曲が2000年代以降の邦ロック楽曲においてクラシカルな扱いになったというのがおもしろくてね。実感とランキングの相違が不思議というか。っていうか納得いってない(笑)

YOU:まぁ、そういうのって一人ひとりあるよね(笑)

カンノ:ランキングってある種、国民の総意じゃん。その総意と自分の感覚って全然違うんだなって改めてよくわかりましたね。

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