SOMEOFTHEM

野良メディア / ブログ / 音楽を中心に

サムオブ井戸端話 #118『音楽における”ヤラセ”を考える』(後編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

音楽におけるヤラセ(=演出)について考えるサムオブメンバー。後編では、商業として流通される音楽にヤラセが施されるのは当たり前なのに、それを言葉にしないミュージシャンと、その行間を掴み取るリスナーの少なさについて語りました。前編は下記リンクから。

 

 

YOU:映画監督の森達也佐村河内守を題材にした『FAKE』という映画を作ったときに、「痛恨のミス」って言ってるんですよ。

YOU:それは最後に佐村河内が新しく買ったシンセサイザーで作曲する過程をほとんど撮れなかったという意味で。

カンノ:たしか佐村河内が作った曲を聴いて、森達也が「まだ隠してることはありませんか?」みたいな質問をして、佐村河内が一瞬戸惑って本編が終わる映画だったよね。

YOU:そうそう。あと海外メディアに「どうやって曲を作ってるのか知りたいし、そのエビデンスが欲しい」みたいな質問を受けてるときに佐村河内の答えは不明確。あの映画はノンフィクションと言ってるけど、ほかの人が入っている時点でフィクションなんだよね。「作品」になっている。「ヤラセ」って悪意のある言葉だけど、結局「演出」っていうことだよね。作者が「どのように届けたいか?」というスケベ心があって、どうしたら商業作品として成立するかという思惑もあって、編集して演出を施してるわけだから。だから「音楽もヤラセである」というのは正しい。というか当たり前だよね。その一方で、そういう点に無自覚な人も多い気がするね。

カンノ:というか「音楽はヤラセである」ということにリスナーのほとんどは無自覚になってるんじゃないかなと思ったから喋りたかったんだよね。

YOU:たとえばジャニーズファンの人ってジャニー喜多川の問題があっても、頑なにジャニーズを追っかけてるじゃん。「タレントは悪くない」と言っている人も多い。でも「いや、本当か?」って思うの。タレントたちも「同期の〇〇がそういう目に合ってた」っていう噂を耳にしている人は多いと思うし。片足とは言わないけど、親指くらいは突っ込んでる人も多いのに、それをなかったことにして「タレントは悪くない」って言うのはどうかと思う。なにが言いたいかというと、彼らは芸能人だから統制してるわけですよ。自分の発言とか発信することとか。「そういう縛りがあるなかでやってることをわかったうえで楽しもう」っていうことではなくて、「悪くない!」とか「ジャニーさん、ありがとう!」とか言っちゃう感じとかはヤラセとは何なのかをわかっていない。つまり「これはガチだ!」っていうことに縛られている人って多いよね。鹿島さんの本『ヤラセと情熱』には、そういう嘘と本当の緊張関係について結構書かれてたよね。それをわかったうえでエンタメを楽しめる人ってじつは少数派なのかもしれないね。

カンノ:前回KREVAのインタビューについて話したけど、あのインタビューは見てる側が試されるものだと思うのね。「KREVAの言ってること、本当なの?嘘なの?」っていう。信じすぎるのもどうかと思うし、「絶対嘘だよ!」というのも違う気がする。

YOU:そうだよね。商業として流通された音楽にはほとんど演出が加えられてるじゃないですか。それを「自然と降りてきました」とかたまに言ってるミュージシャンがいるけど、それは絶対に嘘だよね。でも「自然と降りてきたんだ」と受け止めちゃう人って結構多いんだよね。

カンノ:絶対に自然と降りてくるわけないのに「自然と降りてきました」と言えるミュージシャンは、それをちゃんと言い通せるかが重要だと思う。それがある種の”ミュージシャン力”かな。

YOU:たしかにそれはそうだね。

カンノ:絶対に嘘なんだけど、それを嘘と思わせない説得力をどう身につけるか。

YOU:そういうところで戦ってるミュージシャンは多いかもしれないね。

カンノ:商業ミュージシャンとしてキャリアを積むなら、そういう”はったり力”は大事だと思うよ。ただ気は病んじゃいそうだな…(苦笑)

YOU:ちょっと名前はボカしますが、結構売れているシンガーソングライターの両親とうちの母方の祖父母がなぜか結構仲が良くて。

カンノ:変なつながりだね(笑)

YOU:でね、俺が昔たまたま見ていたテレビのオーディション番組にその子が出てたときがあったの。まだ垢抜けない感じで、アコギ1本持って髪はボサボサで裸足なの。

カンノ:へぇ~。

YOU:その審査員にマーティ・フリードマンが出てたの。でね、その子だけ暗い曲を歌ってたんだよね。それが自分には印象に残ってて。その歌を歌ったあとに司会の人が「どうでしたか?」って感想を聞いたら「全然うまくできませんでした~」って答えてたの。そうしたらマーティがブチ切れて、「ステージに立つなら堂々としろよ!ダメだと思うならステージに立ってんじゃねえよ!謙遜するところはマジで日本人の悪いところだよ!」と超ブチ切れてて。で、その子の両親はその様子を見ながら「意地悪なこと言うわね~」って思ったらしいんだけど(笑)

カンノ:アハハハハッ!他人事かよ(笑)

YOU:でね、今回は「ヤラセ」の話をしているけど、マーティの言ってることは正しいよね。

カンノ:そうだね。つまり、そういう世界ってことだよ。

YOU:そうそう。嘘でもいいから堂々としなくちゃいけないの。それも込みで見てる側は楽しむの。ただ難しいのは、本当に飾り気のない人もいるからね。

カンノ:逆に言うと、「全然うまくできませんでした~」と言うことにキャラクター性が出ていたり、いい意味で説得力が出ていればいいと思うのね。まぁ、10代の子にそれはなかなか難しいと思うけど。

YOU:それこそマーティが属していたヘヴィメタルの世界ってステージの裏に扇風機があって、長髪がちゃんとぶわぁ~ってなるような演出が施されてるじゃん。あんなの自然に起きるわけないんだから。それは今回のテーマである「ヤラセ」ってことだと思うんですよね。

カンノ:そうだね。表現はおしなべて「演出」であり「ヤラセ」であるという話で、意外とそれが言葉にされていないという話です。ミュージシャン自身も言葉にしないし、その行間を掴み取るリスナーも多くないなと思った次第です。

f:id:someofthem:20231208111128j:image