SOMEOFTHEM

野良メディア / ブログ / 音楽を中心に

サムオブ井戸端話 #120『なぜVaundyは「replica」というアルバムタイトルにしたのか?』(中編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

Vaundyの2ndアルバム『replica』について語るサムオブメンバー。中編ではアルバム表題曲「replica」とRadiohead「Creep」の類似の話から、理屈を並べないと肯定することが難しいこのアルバムについて語りました。前編は下記リンクから。

 

 

YOU:アルバムタイトルと同名の「replica」って曲があるけど、あれは完全にRadioheadの「Creep」だよね。

YOU:俺はRadioheadが好きだから来日するたびにライブに行くし、サマソニで生で「Creep」聴いてすごく興奮したのよ。で、Vaundyにそのまんま「Creep」みたいな曲で「I am replica」と言われても「そうだよね」としか思えなくてさ(笑)元も子もないこと言うと、「Creep」みたいな曲で「私はレプリカだ。でもそこからオリジナリティは生まれる」みたいな曲を聴かされても、こっちは「Creep」聴くからさ。「レプリカ聴くより、オリジナル聴くよ」っていうことになっちゃうよね。これが『replica』っていうアルバムのモヤっとするところ。「これは〇〇のオマージュなんです」って言われて、その曲もその元ネタ曲も好きになることってあるじゃん。その曲自体も洒落てて、その元ネタもかっこいいみたいな。

カンノ:渋谷系楽曲とかね。

YOU:渋谷系はまさにそうだよね。そういう曲っていっぱいある。Vaundyはそれとは違って、もちろん良い曲ではあるんだけど、「これなら『Creep』聴いたほうがいいな」みたいな。元ネタを知っている人にとっては、元ネタ楽曲のほうが全然良かったりしちゃう気がした。もちろんVaundyなりの工夫はあるんだよ。90年代のオルタナの影響を受けつつ、でもメロディは今のJ-POPに並べても耐えうるようなものになってるとか。でもこうやって理屈を並べないと肯定できない感じ。音楽そのものだけでなく、ワンクッション置かないと肯定できない感。

カンノ:なんか、コンプレックスがあるのかなと思っちゃうね。

YOU:自分のオリジナリティのなさに対して?

カンノ:そう。だってAdoって替えがきかないじゃん。

YOU:Adoの歌声はAdoでしかないね。

カンノ:それと比べるとっていう。

YOU:それはVaundyもインタビューで言ってた。「僕、自分の歌がうまいと思ってないんで」って。

カンノ:あ~、上手い下手の話も微妙に違ってて。なんだろうな。「Vaundy10曲分でやっとAdo1曲」みたいな感覚ってわかる?

YOU:ちょっとヤバい話だけど(笑)でもそうかもしれない。

カンノ:薄さを感じちゃうんだよね。「35曲」にずっと引っかかってる理由はそこで。この人は借り物をし続けなければならないカルマに入っちゃってるわけでしょ。なんか、要領のいい人の弱点ってそこにある気がしていて。「東京フラッシュ」はラジオで流れることを目標に作られて、そういう分析をして作ってみて、実際ラジオでパワープッシュになってヒットしてっていう流れがあった。Vaundyはそういう流れで結果を出せる人なわけだよ。「どの層にウケたらこうなる」ことが判断できる脳みそを持ってる人で、完全に作家・プロデューサー目線の人なんだけど、演者としても振る舞わなきゃいけないときに「レプリカ」がテーマというのは非常にジレンマな気がするんだよね。だって「質より量」が分かりやす過ぎるじゃん。

YOU:これも先述のインタビューで「例えばKing Gnuの曲って歌うのはめっちゃ難しいのに、歌いたくなる人がたくさんいる。それはKing Gnu自体の個が確立しているからで、すごいなと思う。カラオケで簡単に歌えて、歌ってる本人と相違がなかったら、音楽としては意味がないと思うんですよ。誰にも真似できないんだけど、真似したくなる。でも本人には勝てないという状態でいないといけない。」と言ってて。で、その域には達してないと本人は言ってて。この部分はカンノが今言ったことと通じているなと思った。

カンノ:Vaundyと同時期に売れた人たちってたとえばヒゲダン、藤井風、YOASOBI、King Gnu、Adoとかでしょ。この人たちと比べると「没個性だな」って思っちゃう感じってあると思うのよ。

YOU:たしかにね。で、その没個性を逆手にとって『replica』というアルバムができたのは間違いないよね。それは戦い方として正しいと思うな。

カンノ:正しいけど切ないよね。

YOU:それもわかる。

カンノ:正直言うと、『replica』というアルバムは個人的に今年ワーストなの。それはやっぱり「逃げ」を感じてしまったから。音楽なんて武器や能力を持ってる人が強い世界だと思うの。そのなかでVaundyってほかのミュージシャンと比べると弱いと感じてしまって、その象徴みたいなアルバムタイトルと内容だったなと思ってしまった。やっぱり『replica』のレプリカ性って武器にならないと思うんだよね。

YOU:なるほどね。

カンノ:全曲、食べログの星レビュー3点みたいな曲なんだもん。「おいしいです、以上」みたいな。

YOU:「時間がないときに食べます」みたいなね。Vaundyを聴いたときに「これの参照元は〇〇だな」みたいなことを思って聴くじゃん。それでアルバムタイトルが『replica』だから「なるほど、レプリカってそういう意味ね」となるわけじゃん。そういう情報がセットじゃないとVaundyを肯定的に語れないんだよね。

カンノ:だから結局、音楽を聴いてる気分じゃなくて情報を摂取してる気分だよね。

YOU:そうそう。

カンノ:音楽に熱中したいときって情報をシャットダウンしたいのに、このアルバムはタイトルからしてそうならないんだよね。

YOU:俺はART-SCHOOLが好きなんだけど、このバンドも散々パクリと言われてるんですよ。まぁ、実際に直接的な引用もたくさんあるんだけど(笑)ただ、俺は何の前知識もなく最初に聴いたのがART-SCHOOLで愛着があってずっと好きなの。でも引用元となった音楽の前知識がある人とかはそれを「パクりじゃん」ってバッサリ斬ってたかもしれない。だからこういうことってどの世代間でもあるのかなと思うの。

カンノ:今の時代はジャンルで括れないから。さっきも話したけど、ヒゲダン、藤井風、YOASOBI、King Gnu、Adoが一緒くたで、そこにVaundyもいるでしょ。ART-SCHOOLってJ-ROCK界の話だと思うんだけど、もっと広い世界でVaundyは比較される対象になるから、そりゃ周りに勝てないよねっていう。

YOU:たしかに敵の強さは考慮してなかった。周りが強いね。

カンノ:強すぎるよね。だから「レプリカです」っていう白旗をあげることを武器にしないとやっていけないのはすごくわかるんだけど、それはいきなり最終手段を取った気もしてて。だってこれをやったら次はないでしょ。

YOU:でもインタビューでは次のビジョンは語っていて、「僕の肌感覚にもっと近付けたアルバムを作りたいですね。今出している曲はまだ僕の心から1、2メートルぐらい距離が離れているものだと思っていて」と話しています。俺は最終的にフォークシンガーみたいなことになってほしいんだけど(笑)

カンノ:『replica』ってベスト盤みたいなものだよね。VaundyのWikipedia見るとわかるけど、タイアップ量が半端ないんだよ。

YOU:すごいよね。もうちょっと広告代理店の人たちもほかの若い才能のあるミュージシャンに割り振ったほうがいいレベルだよね(笑)

カンノ:タイアップ曲がありすぎるから全曲星レビュー3点っぽく思っちゃうし。

YOU:Vaundyという才能のある一人の若者を消費しすぎだよね。

カンノ:きっとVaundyって使い勝手が良すぎるんだろうね。

f:id:someofthem:20231222105530j:image