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サムオブ井戸端話 #121『なぜVaundyは「replica」というアルバムタイトルにしたのか?』(後編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

Vaundyの2ndアルバム『replica』について語るサムオブメンバー。後編ではアルバムタイトル『replica』を一種の挑発と捉え、その創作態度について考えました。前編、中編は下記リンクから。

 

 

YOU:ちょっとここで話を変えるんだけど、『replica』というアルバムタイトルの打ち出し方は、挑発だとも思っているの。つまり自分がレプリカであることはわかったうえで出していて、楽曲の参照元もインタビューで全部言う。そのうえで結果どうなったかというと、みんな聴いてる。話題にもしてるし議論も起きている。オリジナリティ云々言っている凡百のアーティストより、ポップミュージックとしてVaundyは勝ってる。というふうに俺は思えた。

カンノ:やっぱり考え方はアーティストというよりはプロデューサーだよね。

YOU:たしかにプロデューサーの発想だね。

カンノ:やっぱりね、「マルチアーティスト」っていう肩書きの人の弱さについて感じることがあるんだよ。「いろんなことをやってます」ということを言うのは、一つでは勝てないからだったりするじゃん。そういうことすべてが『replica』というアルバムタイトルに詰まってる気がするんだよな。だってなんでも模倣できるし、作れるし、歌えるし、演奏できる。でも出てきたものはストレートなロックだったわけじゃん。「それはマルチアーティストってことなのか?」みたいなさ。であれば、「同じ曲に聴こえる」と言われるかもしれないけどYOASOBIのほうがすごいと思うんだよ。YOASOBIの色が見えるから。一発でYOASOBIの曲ってわかるから。

YOU:俺もカンノも尖ったものが好きだと思うんだけど、たいてい尖ったものは捨象されて結果ジェネラルなものが残るじゃん。で、このVaundyの挑発に対して俺は正面から答えられない。「世代が違うからね~」って逃げちゃう(笑)でも『replica』という出し方は非常に尖ってると思ったから、それについてはちゃんとフォローしたいなと思っている。だからVaundyが『replica』というタイトルのアルバムを出したことって2023年の音楽界ではかなりいい事件だと思ったんだよね。

カンノ:それを担う人はいなかったからね。

YOU:で、たまたま最近読んだ本で『欲望会議 性とポリコレの哲学』というのがあるんだけど、俺の大好きな哲学者・千葉雅也。あとはAV監督の二村ヒトシ。そして現代美術家フェミニストの柴田英里。この3人が性的欲望について語った本なんだけど。

YOU:その議論で表現者のものづくりについて話してる部分があって。現代美術家の柴田英里さんのものづくりの実感について話している部分から引用すると「自分のなかに引きこもることによって他者との差異が見えてくると思うんですね。たとえば、自分にとっての美術制作や文章を書く行為もそうです。何かを作っていたりすると、参考文献や影響を受けたものがあったとしても、いままでのものとは違う自分を、影響を受けたものと同じではない価値観をつくらざるを得ないし、無理やりにでもそうしないと、創作はできない。」と言っています。これさ、参照しまくったうえでできたものを「レプリカですから」と言ってるVaundyの価値観と真逆だよね。つまり、参照することは当たり前。そのうえで「自分というものを捻り出すんだ」という創作態度。それを受けて千葉雅也さんがおもしろいことを言っていて、「いま柴田さんが言ったのは、明らかにモダニスト的な創作者像ですよね。」「翻って、二十世紀を通して、ありとあらゆるジャンルでほとんどのパターンが出尽くしてしまい、もはや新しいものを作れなくなっている。すでにあるもののアレンジにしかならない状況になって、その中で育ってきている人たちは、新しいものを作るという意識がほとんどないというか、昔の素材をシャッフルしてどうにかなるみたいな感じになっていると思うんですよね。」と言ってるの。千葉さんはちょっと否定的に言っているけれど、これがVaundyなんじゃないかなって思ったんだよ。

カンノ:なるほどね。

YOU:これは現代思想っぽい言い方なんだけど、Vaundyはポストモダン的な作り手なんだと思うの。

カンノ:めちゃくちゃ馬鹿みたいな言い方だけど、柴田さんの言うもの作りは根性論に思えて、千葉さんの言う「新しいものを作るという意識がほとんどない」というのは諦念だなと思う。

YOU:そうだと思う。引きこもってオリジナリティを捻り出す根性論と、レプリカしかないとする諦念。まとめると、俺としては、Vaundyという超絶売れている人が『replica』である種の問題提起をして、こうやって語りしろが生まれるのはいいことだと思っている。ただ、俺はやっぱりその問題提起に対して正面切って答えられない。「俺の世代はそんなにレプリカとか言ってなかったけど、若い世代は違うのかなぁ?アハハハッ。」みたいな感じになってしまった。

カンノ:なんかさ、『replica』というタイトルからするに自虐とかネガティブを感じちゃうじゃん。「お前はお前なんだから」って言ってあげたいよね。

YOU:本当そうだよ!誰かが「お前はお前なんだから」って言ってあげなきゃダメだよ!

カンノ:アハハハハッ!超絶に余計なお世話なアドバイスを言ったところで締めたいと思います。

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