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サムオブ井戸端話 #126『ジャンルにおける価値固定と価値転倒』(その②)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

ジャンルにおける価値観の固定化とひっくり返そうとする勢力について語るサムオブメンバー。その②では、M-1オルタナティブな漫才を発掘することに機能していた2000年代が価値転倒時代で、今のお笑いの世界を価値固定としたときに、「日本のヒップホップシーンも同じ足跡を辿るのでは?」という話をしました。その①は下記リンクから。

 

 

カンノ:僕は2000年代のM-1グランプリが好きだったんですけど、その価値転倒を繰り返していた歴史だと思うの。漫才に対してオルタナティブである姿勢を芸歴10年以下の若い漫才師たちが見せていたから。たとえば2004年のM-1グランプリ南海キャンディーズ東京ダイナマイトPOISON GIRL BANDというような漫才における異端。

YOU:たしかに。

カンノ:この年は審査員に島田紳助松本人志がいないんだけど、そのときに変な漫才師がウワっと出てきた。で、2008年の最終決戦に残ったのがNON STYLE、オードリー、ナイツ。優勝したのはNON STYLEだったけど、あの年はやっぱりオードリーとナイツを見る大会だと思うんだよ。

YOU:そうだね。

カンノ:「オルタナティブな漫才を見る」という意味で。で、2010年にはスリムクラブが出てくる。「スピードで勝負しない」というパターンが出てきて、2000年代のM-1が終了したんだよね。そこまでのオルタナティブ漫才の歴史観が好きでさ。で、今のM-1はそういう見方がされてない気がしてさ。

YOU:主軸がないってことかな。オルタナティブしかない。

カンノ:その辺りは難しいよね。どれもオルタナティブとも言えるし、どれも主軸とも言える。というか、どれも「いいよね!」みたいな価値観が通っちゃって、もう見方がよくわかんなくなっちゃった。

YOU:ある権威的なものに対抗するような物語が見えなくなった気はするよね。

カンノ:だからもう漫才に対する「新しいもの見た!」という感覚はやり切っちゃったかもしれないね。興奮し終わった。だから今は演劇側アプローチのお笑いが好きなのかもしれない。そもそもの尺が全然違ったり。以前観た『テアトロコント』というイベントで、金の国、さすらいラビー、切実という人たちが出演したの。

カンノ:金の国とさすらいラビーはお笑いコンビ。切実は演劇グループ。『テアトロコント』というイベントは1組に30分という尺が与えられて、そこでは何をしてもいい。で、前の2組は4本のコントをやったの。ようは賞レースサイズのコントをポンポン披露するかたち。短い尺のなかでどれだけボケ数が多くて、できるだけ大きい笑いを起こせるか。もちろんそれだけではないけど、基本的には「短い尺のなかでどれだけ笑いを作れるか」というルールに徹したコントを披露していた。それに対して、切実は30分丸々1本の演劇コント。最初の4~5分は笑いゼロ。一人のおじさんが台詞もなくずっとおじさんらしくしているだけ。でもそれが後々にフリとして効いてきて、後半すごくおもしろいことになってくる。で、演劇コントが終わったあと、ほとんどの観客は気持ち的にスタンディングオベーションみたいな拍手を送ったんじゃないかな。凄まじい演劇コントだった。こんなの見せられたら、お笑い芸人の賞レース的なレギュレーションでは敵うわけないんだよ。

YOU:「4分でたくさん笑わせる」とかではね。

カンノ:これが賞レースの一番の悪いところ。逆に言うと『テアトロコント』の弱点でもある(笑)こんなの、お笑いと演劇では差が出るに決まってるんだから。あんなの見せられたら、切実に持ってかれるに決まってるもん。

YOU:なるほどね。

カンノ:で、日本のなかでこれだけお笑いという文化が発展したうえで思うのが、2000年代のお笑いのシーンと今の日本のヒップホップシーンの辿る足跡が似ているような気がしていて。

YOU:ヒップホップのお茶の間の浸透具合をみるに、日本においてはそうかもしれないね。

カンノ:バトルにおける技の手数やテクニック論が一般人に流布して、戦い方がメソッド化されている時代になっている。あと、専門用語が一般人に定着している。たとえばお笑いだと「スベる」「ボケ・ツッコミ」「噛む」「フリオチ」「裏回し」という用語が一般人にも使われていて、それと同じようにヒップホップ用語だと「ディスる」「チル」「ビーフ」とか。

YOU:ヒップホップにもお笑いにもそんなに興味ない人たちにも使われてるよね。

カンノ:会社の後輩が、自分の部署をレペゼンし始めるのもそう遠くない未来ですよ。

YOU:「レペゼン」はそのうち言われるだろうね(笑)

カンノ:そういうことで言うと、僕は基本的に技術論に興味がなくて。バトルにおける技術論をラッパーが至るところで喋って、リスナーも「そうだったんだ!」みたいな感じで感想を言い合う世界になるんだったら、べつにもう聴かないでいいやっていうさ。まぁ、これはお笑いもそうなんだけど。M-1での戦い方どうこうの話はもうべつにいいや。

YOU:フフッ。

カンノ:フリースタイルバトルとかラッパー同士のビーフM-1みたいな賞レース、もう全部「刺激的なコンテンツです」と出されるものは、なんかもういいやって。やっぱり「1つの大きなシーンの中心みたいなものからどういう距離感でいるのか?」っていう提示は結構大事だなと思っていて。ヒップホップだとイルリメが海外レーベルからハウス楽曲をリリースしていたり、環ROYが演劇方向へアプローチをしていたり。僕が好きだったラッパーの人たちのシーンに対する嗅覚なのかな。これはおもしろいと思っていて。ヒップホップシーンの価値観が固定化されていくなかで、一歩引いた視点というか。「これが良い」ということが固定化された瞬間につまんなくなるというかね。

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