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サムオブ井戸端話 #134『ケツメイシと体調~J-POPの効能~』(後編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

ケツメイシの新曲からJ-POPの効能について考えるサムオブメンバー。後編ではヒップホップのようなリアルを歌う音楽も、J-POPのような虚構の音楽も、どちらも聴く人を麻痺させる効能がある話から、音楽を好きになる通過儀礼として「一度J-POPを嫌いになる」モードがあるという話をしました。(前編)は下記リンクから。

 

 

カンノ:なんか極端な気がするの。「そのままでいいよ」と「根性論」の行ったり来たりな気がして。

YOU:なるほどね。

カンノ:もっと違う軸があっていい気がするんだけど。

YOU:そのままでいい部分とそのままではいけない部分って生きててあるじゃないですか。で、そのままではいけない部分は大人としてどうにか対応していくじゃん。でも、その切り分けができない人が多くなったのかな。そうなると薄く励ましてくれる曲が聴かれるのかな。まぁ難しいよね、メッセージソングばかり聴いてるわけでもないし。

カンノ:ここ最近の日本のヒップホップにノレない理由の一つが、今みんなめちゃくちゃラップうまいじゃん。

YOU:そうだね。

カンノ:ラップの手数、速さ、リズム感。見たことがない口の速さで「俺はこうのし上がってきた」「努力をしてきた」を言いがちなの。

YOU:そういう文化だもんね。

カンノ:だから高速でビジネス書を読まされてる気分なの。

YOU:なるほどね。

カンノ:で、めちゃくちゃ速いから、「そうしなきゃいけない」気分にさせられるというか。聴いてて焦っちゃうんだよね。

YOU:それによって駆動されてる音楽なのは間違いないよね。「こうやって俺は生きてきた。お前はどうだ?」

カンノ:極端なんだよね。

YOU:『スーパースターを唄って。』という漫画があるんだけどさ。

YOU:これはヒップホップの漫画で、売人をやっている男がラッパーとして成り上がっていく話なの。つまりこの主人公にとって音楽はすごく切実なもの。学歴もない、家族もボロボロ、犯罪に加担させられている自分がまともに生きていくためには音楽しかない、みたいな追い詰められ方というか。そういうところからスタートする話なの。つまり、落ち込んでるときに音楽が忍び込んできて、感覚を麻痺させるっていうのはわかるんだけど、一方でどうしようもなく音楽に救われている人もいるわけじゃないですか。結局、どっちも同じことな気がしている。鼻垂らしながらJ-POPを聴く人も、音楽でめっちゃ救われてる人も、同じ音楽のもたらす高揚のなかにいる気がするの。だから難しい。「音楽なんか聴いてないで目の前の問題にちゃんと対処しろよ」と一人の大人として思うこともたくさんあるのだが、J-POPを含む音楽の効能は良い側面もある。ただ、我々はこうして言葉にしているけど、音楽を聴いてる多くの人はそれを意識していない気がする。

カンノ:たとえば前回話したように、僕はZAZEN BOYSクチロロが大好きで、この2組から知的好奇心をくすぐられまくりました。

カンノ:この2組の音楽に心が揺さぶられるということには何ら問題はなさそうなんだけど、雪の降る冬の寒い夜にケツメイシを聴いて涙して「このままでいいんだ」と現状肯定しようとすることが「なぜダメなのか?」っていう。同じ悦の浸り方だと思うんだよ。どちらもある種の麻薬的なことだと思うの。その違いって何なんだろう。

YOU:今なんとなくわかったのが、聴き手を突き放すタイプと「大丈夫だよ」と包むタイプの違いかもね。

カンノ:なるほど。

YOU:もちろんどっちも使える人もいる。銀杏BOYZとかはそうかな。

カンノ:銀杏は突き放したあと、包むね(笑)

YOU:でも突き放すことを全然しない人もいて、ケツメイシはその代表格かもしれない。たとえばミスチルの最新アルバムってファンもあまり話題にしていないみたいなの。

YOU:ほとんどプロモーションを打っていない。タイアップ曲が1曲もないんだってね。そして、キャリアでも類を見ないほどの暗めの歌詞にシリアスな曲調。だから今回のアルバムのミスチルはファンを突き放しにかかっている。まぁ、『深海』とかこれまでのキャリアでそうゆうことがなかったわけではないし、だからこそ単なるJ-POPではなくて真剣に語られる部分があると思うのだけど。

YOU:で、前回カンノが話した向井のインタビューでは「分かられたい」みたいな話もしてたじゃん。

YOU:でも、そうじゃないと思うの。向井が、「俺はこう思ってるからお前は大丈夫だ」みたいなことは言わないじゃん。

カンノ:そうだね。

YOU:そのリスナーを突き放したりする感じが俺たちは好きじゃん。たとえばミュージシャンの鬼気迫るライブ映像とか見ると、「怖い!けどかっけ~!」みたいな気持ちってあるじゃん。それを「好き」って言えるようになるには、極端な話、J-POP的な世界を一度嫌にならないと無理だと思うんだよね。

カンノ:そうだね。

YOU:あとめちゃくちゃ単純に、小中学生のころ、J-POPを聴いてイキがっていたやつが俺のことを虐げてきたし、「あいつらとは違うんだ」っていう意識は多少なりともあったんだよ。少なくとも俺は。でも、こういう人は少なくないんじゃないかな。

カンノ:この話は一旦区切って続きをやろう。J-POPが嫌いになった瞬間について思い出したことがある。僕は、Mステが大嫌いだったんですよ。

YOU:アハハハハッ!よし、あとで続きをやろう(笑)

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